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山口地方裁判所 昭和43年(ヨ)83号 判決

債権者 広中克己

債務者 中国電力株式会社

主文

本件仮処分申請をいずれも却下する。

申請費用は債権者の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

(債権者)

一、債務者会社は本案判決確定にいたるまで、債権者を債務者会社下関営業所の職員として取扱い、昭和四三年六月以降債権者に対し毎月末日限り金四万五四五円宛の給与並びに賞与を支払え。

二、債務者会社は債権者に対し金一〇〇万円を支払え。

三、申請費用は債務者会社の負担とする。

(債務者会社)

一、本件仮処分申請をいずれも棄却する。

二、申請費用は、債権者の負担とする。

第二、当事者の主張

(債権者の申請の理由)

一、債権者は、昭和三一年四月一日から債務者会社(以下会社という。)の山口支店下関営業所に営業課員として勤務して来た者であるが、会社は、昭和四三年五月九日債権者に対し山口支店柳井営業所久賀出張所への転勤を発令し、債権者がこれを拒否したところ、更に同年六月五日債権者を懲戒解雇する旨の意思表示をした。

二、しかしながら、本件転勤命令は、以下に述べるように不当労働行為か若しくは権利の濫用であつて無効であるから、これを拒否しても懲戒解雇の理由とはならないので、本件解雇の意思表示もまた無効である。

(一)、債権者は昭和三三年五月から昭和四三年五月一二日まで引続いて中国電力労働組合(以下組合という。)下関支部執行委員に選出され、その間五回程度右支部書記長の地位にあり、また昭和三六年五月から昭和四一年五月までの間は組合本部執行委員を兼任していた。

(二)、しかるところ、組合内部には民主化同志会と称するいわゆる御用団体が存在し、右団体は組合をいわゆる御用組合化しようとしていたので、右団体のかかる活動に対し、債権者は右支部執行委員として極力反対し、組合を労働者のために闘う労働組合にするために努力している他の組合員達の中心となつて活動していた。

また、債権者は、反民主化同志会派の組合員らとともに、会社山口支店下関保線区区長の中司藤市が事情を知らない部下を利用して会社の金銭を横領若しくは会社から金銭を詐取したということで同人を昭和四二年一二月二二日告発し、その責任を追及したが、会社は、同人が民主化同志会の積極的活動家であるところから、債権者らの責任追及を嫌い、極力同人をかばつて来たので、債権者らは会社のかかる態度を追及していた。

(三)、会社は、債権者らの右のような御用組合化に反対する活動や、民主化同志会の積極的活動家の中司に対する告発その他の責任追及を嫌悪して、中心的活動家の債権者の右活動に打撃を与えるとともに右活動に対する報復として下関営業所から遠く離れた離島の久賀出張所に転勤させるために本件転勤命令を発令したのである。

三、債権者は、本件解雇までの間、会社から毎月金四万五四五円の給与並びに所定の時期に賞与の支払を受けていた。

また債権者は前記のような無効な本件解雇により精神的肉体的に多大の苦痛を蒙つたが、これを慰藉するには金一〇〇万円が必要である。

しかるに会社は本件解雇以降これらの支払をしないうえ、債権者を会社下関営業所の職員として取扱わない。

四、債権者は会社から支払を受ける賃金で病弱な妻を抱えて生活している者であつて、現在本案訴訟を提起するため準備中であるが、本案判決の確定をまつていては、回復し難い損害を蒙るおそれがある。

(債務者会社の答弁並びに主張)

一、申請理由に対する答弁

第一項及び第二項の(一)の事実は認めるが(但し書記長歴任回数は四回である。)その余の事実はすべて否認する。

二、本件懲戒解雇事由の主張

(一)、本件転勤命令の理由

(1)、会社においては、毎年二月に職員の定期異動を実施することが慣例となつているところ、右異動は会社支店管内の各事業所所長の内申に基き支店長が発令することになつている。

しかるところ、債権者については、他の職員とともに、昭和四二年一二月一一日付で下関営業所長から山口支店長に対し、異動の内申がなされたので、同支店長は管内の各営業所長の異動内申をも考慮のうえ、左記の理由で債権者を山口支店柳井営業所久賀出張所へ転勤させることにした。

(イ)、当時久賀出張所には一名欠員があり、その補充を行う必要があつたこと。

(ロ)、下関営業所における債権者の事務処理は別紙目録記載のとおり粗雑かつ無責仕であるうえ、債権者は性格的にも協調性に乏しいため、営業所内の関係個所に支障を与え、延いては需用家に対しても迷惑を及ぼしているので、需用家が多く、また債権者の事務処理と関連する社内関係個所の多い事業所勤務には適任でなく、需用家及び職員の少い営業所管内の出張所勤務が適任であること。

(ハ)、未経験の出張所業務を経験させることにより広く仕事を覚えさせる必要があること。

(ニ)、債権者は下関営業所に既に一〇年以上の期間、営業課員として勤務しており、営業課員としての勤務が長期化していること。

(2)、山口支店長は、以上の諸点を考慮して、債権者を久賀出張所の欠員の補充にあてることにし、同出張所へ転勤させることを決定していたところ、当時債権者には懲戒問題が生じ、昭和四三年一月三一日付で債権者に対し懲戒休職三ケ月の処分がなされることが決定していたので、債権者に対する右異動は他の者とは切り離して右処分の期間満了を待つて行うことにしたが、同年四月三〇日で右期間が満了したので、下関営業所営業課長において、同年五月二日、更に同月六日債権者に対し前叙の如く既に決定していた久賀出張所への転勤を内示し、その意向を聴取したところ、債権者はこれに反対の意向を表明したが、山口支店長は同月九日付で債権者に対し本件転勤命令を発令した。

(二)、本件転勤命令発令後の事情

(1)、会社の職員就業規則(以下規則という。)第九条の規定によると、職員は転勤辞令受領の日から一〇日以内に新任地に着任しなければならないことになつているところ、債権者は本件転勤命令受領の日から一〇日以内の五月一八日までに久賀出張所に着任しなかつた。

そこで、会社は、債権者に対し同月一八日付の「着任の催告について」と題する書面をもつて同月二三日までに必ず久賀出張所に着任するように催告するとともに、これに従わない場合には規則第九条違反で所定の措置をとらざるを得ない旨の警告をなし、更に同月二〇日下関営業所長において口頭で同月二三日までに必ず着任するように要請したが、債権者は右好意的注意を無視し、外部団体の者達とともに下関営業所に押しかけ、所内において抗議を行い、所長の退去命令にも従わず、あくまでも本件転勤命令を拒否する態度を変えなかつた。

(三)、そこで、会社は企業秩序を維持する必要から規則第九条、第二六条第一項第一号、第六四条第一項第二号により昭和四三年六月五日付で債権者を懲戒解雇したのである。

以上のとおり、本件転勤命令は、正当な理由に基くものであるから、これを拒否したことを理由とする本件懲戒解雇もまた正当である。

(債務者会社主張の懲戒解雇事由に対する債権者の答弁)

一、債権者の事務処理が粗雑かつ無責任であるというが、債権者は担当事務について上司から一年間に二、三回の注意を受けた以外には業務指導、警告などは一切受けていなかつたし、また下関営業所の営業課長が五月二日債権者の意向を打診した際にも本件転勤の理由として右の点を挙げていなかつたのであり、このことは債権者の事務処理が会社の主張するようなものではなかつたことを物語るものであつて、会社は債権者の反対にあつた結果、本件転勤を正当化するために事後に債権者の業務処理が粗雑無責任である旨の本件転勤の理由をねつ造して、本件転勤理由のすり換えを行つているのである。

二、仮りに債権者が担当業務に不適任であつたとしても、会社としては債権者を下関営業所の他の業務に配置転換するか、または同営業所管内の小規模事業所に転勤させることも可能であり、このような異動が行なわれている事例は多々あるのである。

三、会社と組合との間の労働協約の第七条は異動(配置転換)につき「本人の意向、生活条件、技能等を考慮して公平に行なわなければならない。」と定めているところ、右規定は従来次のように運用されている。

即ち本人が転勤に反対したときは、会社は一定の譲歩条件を出してでも本人の了解を得るという形で、その意向を形式的にしろ尊重して来たのであつて、本人があくまでも反対する場合には強行したことはなかつた。

ところで債権者は、次のような事由を挙げて本件転勤に反対した。

(イ)、妻の父が七月に定年退職して他に転居するまでは債権者が相談にのらなければならないこと、債権者の妹が福岡に就職しているので親代りとして相談にのらなければならないこと、妻が病弱であるため、どうしても妻の両親の手を借りる必要があること、妻と共稼をしていること。

(ロ)、一〇年以上勤務している者は、下関営業所管内で約八〇名おり、総務、営業、工務の三課だけでも約五〇名いるのであり、営業所業務の経験しかない者も、ほぼ同数いること。

(ハ)、戦闘的労働者の債権者を下関営業所から転勤させることによつて債権者の活動に打撃を与え、民主化同志会を援助しようとするものであること。

(ニ)、債権者は中司藤市の不正を告発した者のひとりとして、あくまでもその闘いを継続する必要があること。

(ホ)、債権者は懲戒休職処分を争つて山口地裁に訴訟を提起していること。しかるに、会社は前記の労働協約、慣行を全く無視して五月二日の意向打診、同月六日の転勤内示、同月九日の辞令交付までの間、債権者の右反対理由に対して一回の説明もせず、まして話合による一致点を見出そうとする努力をすることもなく、機械的、形式的に右手続を行つて、一方的に本件転勤を強行したのである。

四、久賀出張所には、既に昭和四二年一〇月から欠員があり、しかも右欠員の補充は、昭和四四年二月に行なわれていることからみれば、同出張所の業務は、欠員のある状態でも処理できるものであつたといえるのであり、仮りに、そうでないとしても、債権者の担当する事務は、特殊な能力を必要とするものではなかつたのであるから、余人をもつて代えることも容易であつて、債権者を欠員の補充にあてる必要はなかつたし、また臨時職員の雇用で足りる状態にあつたのであるから、定期異動の時期でない時期に債権者を転勤させる必要はなかつたのである。

第三、疎明〈省略〉

理由

第一、申請理由第一項及び第二項の(一)の事実は当事者間に争いがない。

第二、本件転勤命令の効力

一、会社の業務上の必要性

証人矢田貝俊也の証言(第一回)により成立の認められる乙第三号証及び同証言、証人吉富恭夫の証言により成立の認められる乙第四号証及び同証言、証人佐久間保の証言により成立の認められる乙第五号証の一、二及び同証言、成立に争いのない乙第七ないし第一一、第一二の一、二号証、証人石田晟、同石川喜郎の各証言を綜合すると、次のような事実が、一応認められる。

(一)、会社は毎年二月に職員の定期異動を実施していること、その目的、基準は例年その骨子において同一であつたところ、昭和四三年二月実施の定期異動の目的は、業務能率の向上をはかるために、適材適所の理念に立つて、業務運営に必要な人材の配置、職場士気の高揚、刷新、職員の能力、素質の伸長をめざすことにあり、その基準は、(イ)適性の有無に照らして、他業務への配置転換を要する者の配置換えを行う、(ロ)人材養成のため、他業務の教育を必要とする者の配置換えを行う、(ハ)へき地事業場に三年ないし五年程度以上の長期間勤務する者で必要と認められる者の交替を行う、というものであつた。

(二)、しかるところ、債権者は、昭和三一年四月一日会社に入社以来、一貫して下関営業所営業課に勤務して来た者であつて、同所営業課員としての勤務が一〇年以上の長期間になつていた。

債権者は昭和四〇年六月から営業課営業係に属し、電力の臨時供給受付の事務、即ち冷暖房用の如く毎年一定の期間内に限り、或は工事用の如く一カ年未満の期間内に限り、使用される電力の供給の新規申込または供給の復活或は休止等の受付事務を担当していたが、その業務内容は定型的なものであるうえ、業務量も多いものとはいえない状態であつた。

しかるに債権者は、人並の素質、能力を有しながら、これを担当業務に反映させる意欲に乏しく、業務票の作成にあたり、しばしば必要事項の記入洩れや、誤記入があり、或は業務票を直ちに営業課の他の係に回付しなかつたり、また電力供給の新規申込又は供給の復活、休止の事務処理を遅延させ、需用家に対する電気料金の過徴収又は追加徴収の必要を生じさせ、更に電気料金改訂に伴う業務票改訂の事務を長期間にわたつて放置し、また退社時、会社の領収印が既に押捺してある現金領収書綴を金庫に保管しないで自己の机の抽出に入れたままにしていたこと等その業務処理は前任者に比して相当に粗雑かつ無責任なものと評し得るものであつた結果、債権者の担当事務と密接に関連する営業課の他の係や営業所の他の課の業務処理に支障を与え、更には需用家に対しても種々の迷惑を及ぼしていた。このため上司の係長や課長等において、しばしば注意したものの、改善のあとが必ずしも顕著に認められなかつた。

(三)、そこで、債権者の勤労意欲を向上させるためには、債権者の職場を換えて、その気分を一新するとともに、常時指導監督することが必要とされ、右目的のためには、債権者を需用家及び職員の少い小規模事業所である営業所管内の出張所に勤務させることが適性上必要であると同時に未経験の出張所業務を経験させることにもなり教育的観点からも適当であると解されたところ、下関営業所管内にある二ケ所の出張所はいずれも、事務職員を必要としなかつたため、他の営業所管内の出張所に転勤させる外はなかつた。

(四)、しかるところ、当時山口支店管内には一三の出張所があつたが、所長の下に係長のいる事務係が設置されていて、係長、所長の行届いた指導監督が出来る出張所としては柳井営業所管内の久賀出張所一ケ所のみであつたところ、同出張所の事務係に一名欠員があり、これを補充する必要があつた。

ところで、右欠員は昭和四二年七月頃からあつたが、会社は欠員の補充を定期異動において行うことを原則としていたため、昭和四三年度の定期異動において右欠員の補充を行うことにして、債権者をこれにあてることにした。

以上の事実が疎明され、他にこの認定を覆えすに足りる疎明はない。

(五)、右認定の事実関係からすると、会社が債権者に対して久賀出張所に転勤を命ずる業務上の必要があつたものと一応、認めることができる。

二、ところで、債権者は、前記「債務者会社主張の懲戒解雇事由に対する答弁」に掲記した通り主張して、会社の業務上の必要を争うので、この点について検討してみるに、一の点については、前掲佐久間証言によれば、昭和四三年五月二日に下関営業所営業課長の佐久間が債権者の意向聴取をした際、本件転勤の理由として債権者の主張する事実のみを挙げたことが認められるが、前掲乙第三号証、証人矢田貝の証言(第二回)により成立の認められる乙第一六号証並びに証人矢田貝の証言(第一、二回)によれば、下関営業所長の矢田貝は、同人が昭和四二年一二月一一日付で申請した異動申請書に、債権者を他営業所の出張所に転勤させる理由として、適性上他事業所に転換して意欲向上と養成をはかる旨記載していること、また右矢田貝は昭和四三年五月九日、組合下関支部との団体交渉において債権者の業務処理が粗雑である旨説明していることが認められ、更に前掲矢田貝(第一回)、石田及び石川の各証言を綜合すれば、前記認定のとおり、債権者の事務処理が粗雑かつ無責任なものであること、上司の係長や課長においてしばしば注意をしていたことが認められるのであるから、これ等によれば、会社が債権者の主張するように本件転勤の理由をねつ造したものとは云えず、従つてまた本件転勤の理由をすり替えたとの非難も当らないこと、二の点については、前記認定のとおり、債権者の下関営業所における勤務が長期化していること、同営業所管内の出張所には事務職員を必要としなかつたこと、三の点については、成立に争いのない乙第一三号証によれば、会社と組合との間の労働協約第七条に、その主張のとおりの規定のあることが認められかつ、証人岡野満、山本宏、増田秀男の各証言および債権者本人尋問の結果によれば、従前配転は会社が発令前にこれに反対する被配転者を極力説得し、被配転者も最終的には止むなく、形式的にもせよ同意するというように、被配転者に了解させた上発令するのが通常であつたことが窺われるところ、このように形式的にもせよ被配転者の同意をうるということは人事管理の円満な運営上望ましいことに相違ないであろうけれども、一方、同意がなければ絶対に配転できないとすることは人事を極度に硬直化し、ひいては会社経営に著しい困難を強いる結果に至るであろうことも見易い道理であること、主張の労働協約第七条も右のような同意を要求しているものとは勿論、解することはできず、また右のように、形式的にもせよ同意させるという従前の通常のやり方が拘束力をもつた慣行となつていたとまで認めるに足る証拠はないのであるから、本件転勤命令が債権者の同意するところとならず、その意に反して発令されたとしても、それを理由にこれを無効のものということはできないこと、前掲乙第一六号証、佐久間、矢田貝(第一回)の各証言によれば、下関営業所長の矢田貝が本件転勤の理由を組合下関支部との団交の席で説明していること、債権者は自己の身上関係については当初妻の父の問題を挙げていたが、五月六日の意向聴取の際にはこれを撤回して一身上のことは主張しない旨述べていたこと、また、債権者は、本件転勤に対しては結論として政治的弾圧であるという趣旨の主張をして絶対反対の態度を持していたことが認められることからすれば会社側の態度のみをとりあげてこれを一方的、機械的なものであつたとする債権者の非難はにわかに首肯し得ないものであること、四の点については、証人滝本圭一の証言によれば、債権者が本件転勤を拒否したため、昭和四三年六月から昭和四四年二月滝本圭一が転勤するまでの間会社は臨時職員を雇用して久賀出張所の業務の処理をしていたことが認められ、また前記認定のとおり、常時債権者に対する指導、監督を行うことが必要であつたこと、前掲乙第三、第四号証、矢田貝、吉富の各証言によれば、本件転勤は、昭和四三年度の定期異動として実施されることに決定していたところ、債権者に対して懲戒休職三ケ月の処分が行なわれることになつた結果、本件転勤の発令時期を延ばしたに過ぎないことが認められること等に徴すれば、前記一の(五)の結論を覆えすに足りない。

三、不当労働行為若しくは権利濫用の成否

(一)、当事者間に争いがない事実並びに前掲古野、岡野の各証言を綜合すれば次のような事実が、一応認められる。

昭和三八年九月頃、会社の職制を中心として組合下関支部内に民主化同志会と称する団体が結成されたこと、その構成員は当初支部組合員二〇〇名余りのうち五、六〇名程度であつたが逐年増加し、それに伴つて、右団体の構成員が、正副執行委員長を含めた支部執行委員九名のうち昭和四一年には五名を、昭和四二年には執行委員長を含めて六名を占め、支部の運営の支配権を掌握し、更に昭和四三年には八名を占めるにいたつたこと、右団体はいわゆる労使協調路線の立場に立つ組合本部の方針に忠実に従い、生産性向上に協力し、容共路線の排除を目的としていること、

ところで債権者は、右団体の目的に反対の立場に立つ組合員であり、昭和三三年五月から昭和四三年五月一二日まで引続いて組合下関支部の執行委員に選出され、その間四回右支部書記長の地位にあり、また昭和三六年五月から昭和四一年五月までの間は、組合本部執行委員を兼任していたこと、

而して、反民主化同志会派の債権者らが、右支部の活動の主導権を掌握していた当時、債権者らは、出張所、散宿所の統廃合、女子職員の二五才定年制等の合理化問題或は職務給化の問題について営業所側との団体交渉或は経営協議会の場において、会社の方針に反対するとともに、右反対の立場を組合員に周知徹底させるため日常的に教育、宣伝活動を行い、合理化問題等で会社側に譲歩をさせ、また日常職場において発生する問題については所属長との職場単位の交渉を通じて解決していたこと、そして債権者は右活動において支部組合員の先頭に立つて活発に活動していたこと、他方債権者らの右活動に対する会社側の態度は、昭和四一年四月頃、下関営業所の次長が、支部役員の選挙中に行なわれた工務課の職員教育の際に、生産性向上に反対する者を非難する趣旨の発言をしたこと、また同年一〇月頃、下関変電所の所長が、青年部の役員をしていた部下に対し本人の活動、思想の問題等について会社の意向に副わないものであるから、活動を止めるようにという趣旨の発言をしたこと、更に昭和三九年から新入社員が下関営業所に配属されなくなつたが、これは支部の青年婦人部が、地域の青年運動の中心となつて活動していたことによるものと窺われること、また民主化同志会の構成員と債権者らとの間で、会社側が賃金の査定等の待遇面で差別をしているのではないかとの疑念を生ぜしめることもあつたこと、

以上のような事実が認められ、他にこの認定を覆えすに足りる疎明はない。

(二)、次に前掲古野の証言によれば、次のような事実が、一応認められる。

債権者は、仲間の組合員らとともに、昭和四二年一〇月末頃、民主化同志会の積極的活動家とされていた下関保線区区長の中司藤市が会社の金銭を横領ないし詐取している旨指摘して同人の責任を追及したが(以下中司事件という)、会社は調査の結果右指摘の如き事実がない旨回答したこと、しかし債権者らは中司が民主化同志会の積極的活動家であるとされていたことから、会社は同人をかばうために充分な調査を遂げることなく、むしろ事件のもみ消しを図るものとして、右回答に納得しなかつたこと、そして債権者は外二名の組合員とともに更に同年一二月末頃、中司を下関警察署に告発し、あくまでも同人の責任を追及しようとしたこと、以上の事実が認められ、他にこの認定を覆えすに足りる疎明はない。

右認定の(一)、(二)の事実関係からすれば、債権者が、労使協調の立場に立つて生産性向上に協力するとともに容共路線の排除を標ぼうしている民主化同志会と厳しく対立して会社の合理化政策等に徹底的に対抗し、更には事が公けになれば、その真偽の如何を問わず会社の信用を害する虞れが顕著に認められる前記中司事件を、会社の調査結果に納得せずに告発し、これを広く世間に公表するような行動に出たことから、会社が債権者の右の如き行動に不快嫌悪の念を抱いていたであろうことは推認するに難くないところである。

(三)、しかしながら、本件転勤命令については、前記一に判示するとおり会社が債権者を久賀出張所に転勤させる業務上の必要性の存在が一応合理的に認められるうえ、前掲古野の証言、債権者本人尋問の結果によれば、債権者は、昭和四三年四月末ないし五月初めに行なわれた組合下関支部の役員選挙において落選していることが認められ、また前記認定のとおり会社は債権者に対して二回にわたりその意向聴取を行い、支部組合との団交に応じて本件転勤の理由についての説明を行つたが、前掲矢田貝の証言(第一回)によれば、支部組合は本件について労働協約上の苦情処理の手続をとつていないこと、後記認定のとおり会社は事実上着任期限を猶予し、猶予期間中にも下関営業所長において債権者に翻意するように説得していること等に徴すれば、前記認定の(一)、(二)の事情があつたことから直ちに本件転勤命令を不当労働行為と断ずることはいささか困難であるし、また権利の濫用ともいい難いから、結局本件転勤命令は有効なものと判断せざるをえない。

四、しかして当事者間に争いがない事実並びに原本の存在と成立について争いがない乙第二号証、同乙第六号証、前掲矢田貝の証言(第一回)によれば、次のような事実が、一応認められる。即ち、会社の規則第九条が、職員は転勤辞令受領の日から一〇日以内に新任地に着任しなければならない旨規定しているところ、債権者は、昭和四三年五月九日本件転勤命令の発令を受けたが、一〇日以内の同月一八日までに久賀出張所に着任しなかつたこと、そこで会社は、債権者に対して同月一八日付の「着任の催告について」と題する書面で同月二三日までに久賀出張所に着任するように催告し、更に同月二〇日下関営業所長が、口頭で右催告期限までに着任するように説得したが、債権者は遂に右期限までに久賀出張所に着任せず、あくまでも本件転勤命令を拒否する態度を維持し同月一八日から約二週間にわたつて部外の者達とともに営業所内において抗議行動を行い、ことに同月二二日及び二三日には、所内において坐り込みをし、会社側の退去命令にも従わず営業所の業務の阻害にいたる行動に出たこと、

以上の事実が認められ、他にこの認定を覆えす疎明はない。

右認定の事実関係からすると、債権者の行為は、会社の有効な転勤命令に正当な理由なく従わなかつたものといわねばならないから、債権者の右所為は、規則第六四条第一項第二号所定の懲戒事由に該当し、従つて会社が企業秩序を維持する必要からなした本件懲戒解雇は有効なものと判断される。

第三、以上のとおり、本件懲戒解雇は有効であるから、その無効を前提とする債権者の本件仮処分申請は、その余の点を判断するまでもなく、失当であるから却下を免れない。

よつて申請費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 荻田健治郎 小川喜久夫 三島いく夫)

(別紙)

目録

一、粗雑、無責任な業務処理

該当項目の詳細

内訳件数

備考

項目

内容

合計

四一年四月

~四二年一月

四二年二月

~四三年一月

現収領収帳の保管不備

現収領収帳を退社時に金庫に保管していない

しばしば注意

しばしば注意

業務上のミス

契約電力、力率等の誤算訂正

業務票等の発行もれ

竣工月日の相違

業務票等の整理不備

取立依頼書の発行もれ

マーキングミス

入金上のミス(重複その他)

業務票の重複発行

取扱ミスにより「割引取消、免除」の扱いをしたもの

多数

数えきれぬ程多数

数えきれぬ程多数

(四二年七月分のみの件数)

処理の遅延

業務票処理の遅延

予納金の払戻し遅延

受付事務の遅延

料金改訂に伴なう需用家カードの整理遅延

全使撤不足入金分の遅延

臨時料金の月末未収

二、八一八

二三七

多数

八〇件

八二三以上

五九

多数

本人のみ遅延

三六件(五カ月)

七七、二六二円

一、九九五以上

一七八

多数

四四件

一三一、六一二円

その都度注意してきたが、件数多数のため調査困難

係長の計画指示した中で本人のみ整理が遅延

業務の代行

処理

現収金入金および受付等

を他の者で処理したもの

五五八

一九三

三六五

二、需用家に迷惑をおよぼした事項

該当項目の詳細

内訳件数

備考

項目

内容

合計

四一年四月

~四二年一月

四二年二月

~四三年一月

料金関係

契約電力の誤算

力率の誤算

予納金払戻しの遅延

使用開始の相違

料金の過徴収

料金の追加徴収

重複入金

誤算による払戻し

料金計算(認定)遅延

二三七

一九〇

五八

五九

三七

一七

一七八

一五三

四一

「一、粗雑、無責任な業務処理」のうち、「需用家に迷惑を及ぼした」件数を再掲した。

電気供給関係

使用開始の遅延

竣工調査(検査)の遅延

多数

多数

多数

多数

多数

多数

需用家ならびに工事業者から申出により、注意指導しているが、実数の調査は困難

三、他の課、係に迷惑をおよぼした事項

該当項目の詳細

内訳件数

備考

項目

内容

合計

四一年四月

~四二年一月

四二年二月

~四三年一月

営業係

業務の代行処理

需用家カードの整理遅延

「割引取消、免除」の立案決定

領収金額の相違

五五八

一二〇件程度

一九三

六〇件程度

三六五

六〇件程度

「一、粗雑、無責任な業務処理」のうち、「他の課係に迷惑を及ぼした」件数を再掲した。

計器係

無駄な検針

若干

若干

若干

全使撤業務票の調定報告遅延により検針カードの取除きが検針日に間にあわぬため

調停係

料金精算事務の増加

使用電力量変動チェック

二四八件

四三八件

五四件

一〇一、七五四円

一七二件

一九四件

二六五、二一一円

二六六件

粗雑、無責任な業務処理(業務上のミス、処理の遅延)により業務の増加を来たした

集金係

料金払戻事務の増加

集金事務の阻害

三五件

一〇件

六七、三五九円

二五件

五九、九三八円

同右

公務課

調査業務の遅延

支払業務の遅延

マーキングミスの訂正事務

急を要する設計事務の増加

工務課への回付の遅延により工務課の業務が遅延した

同右

回付の遅延により急を要する設計が増加した

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